イノウエさん 好奇心 blog

井上慶太郎の学術系スナップショット。月1予定。

Shanghai Story

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 上海へ行かせて頂きました。
 現地では、最近、親しくさせてもらっている重慶出身の知人に会ったのですが、会話の内容も多岐にわたり良い時間でした。他愛のない話がほとんどでしたが、小籠包の話から、いつのまにか、中国政府の情報規制のことなどに話が至ると、ますます充実した話になりました。
 グーグルもLineもインスタも、アクセス制限を解除するVPNに接続しなければ使用できないことや、さまざま起こる惨事が、中央政府によって隠蔽されてきたことも、すでに市民の間にも漏れ伝わるところでした。この点に話が広がると、いつの間にか彼女の方から、このままではいけない、という危機感が発せられるようでした。
 というのも、聞けば、彼女の家系は代々、中国国税局に勤務しており、身内の稼業に対する不満が、まだ25歳の彼女の言葉の節々に反映されていたからです。いつの間にか、聞き役に徹する自分がいました。
 汚染の実態を公表しない〇〇という地域での官庁の応対や子供の病の実情など、悲惨なエピソードを伝え聞くあいだ、ぼくは、彼女の不満を和らげていました。
 わかるよ、日本もかつて公害を撒き散らすひどい国だった。と、若干、背伸びして共産党政府をかばう自分がいました。そんな社会の現状に興味のある彼女でさえ、天安門の話をほぼ知らなかったのは驚きでした。

 しばらく傾聴に徹していた僕の口から、「そういうけれど中国は悪いところばかりじゃない。むしろ偉大な国だ。」といった言葉が飛び出すまでには、それほど時間はかかりませんでした。そんなことを言える立場でもないし、経験もありません。
 昔ファインボーイズという、思春期の男子が読む書物に書かれていた呪文がふと思い出されました。そこには、女の子が彼氏の不満を漏らした時こそ、チャンス、責められる彼氏を擁護すれば、あなたの好感度はぐんと上がります!というような卑猥なことが書かれておりました。当時はその書物聖典のように扱いましたが、それとは全く関係ありません。また、彼女の辛辣な言葉に嫌気がさしたわけでもありません。
 ただしみじみと、中国は強大な国だと、思えたからです。
 僕が今回、訪れたのは上海と杭州でしたが、そこで見たことは印象深く、やがて自分を勇気づけるほどのものでした。ひとつは、夜景を生み出す中国の都市政策。もう一つは、寺院の景観です。

 当然ながら、一般的に市民の知る自由が制限されることは良いわけはなく、それどころか、過剰な敵意を生み出す歴史教育も、市民の生存権まで厭わない施政の危うさも言語道断で、どれも人権侵害に起因する根深い問題です。ですが、個人的には、国を経営する国家体制の現実味には感慨深いものがありました。実際に観光客で溢れるThe band 区域への資本の力の入れようにも夜景の人工的な電飾効果も驚かされました。
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 一方、仏教寺院の荘厳さにも、政府の強い方針を感じるものでした。荘厳というよりも、日本人から見たら、装飾過剰と思えるほど雅な仏像や、巨大な寺院建築にも人々は惹きつけられて、結局は観光客の溢れていることに、自分もその中の一人として感慨深い体験となりました。
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 そこに精神性の洗練されたものを感じたというよりも、まったく世俗的な視線に寄り添った娯楽の楽しみが、商業とあいまって、人々を上手に包み込んでいると思えたからです。上海の歓楽街の巨大な建造物の壁には多くの箇所に巨大な液晶が設置されていましたが、それも同様で、裏路地のうらぶれた風景とのギャップを感じさせるもので、街の大きな魅力となっていたように思います。
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 つまるところ、それらの国内外の人々の人心掌握にまつわる作為的な景観や方針に、中国共産党の国家経営の意気込みや凄みを感じたのだと思います。

 ところで、いつのまにか彼女は歩き出していました。スイカが食べたいとのことです。ふとしたついでに虹口区の八百屋で写した、この写真を見せました。
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 どうやら、この写真は気に入られたようで、帰国したら送って欲しいとのことでした。

 僕は偉そうにも無知ながら、日本にいる間、自分の国が、国の台所事情によって市民を犠牲にする国のように思えていました。きっと、その不満を拡大したような姿を、中国の街並みに見つけた気がしてなんとなく腑に落ちたのでした。
 政府は、政府で、台所事情を知っている手前、半ば強引な方針を打ち出すために、国連人権委員会だの、自由権規約との整合性がどうのこうのと、国際標準と、折り合いが難しくなっている様子も新聞紙面から見ても明らかです。この状況を、まったく擁護するわけでも、好きなわけではないですけど、中国を見て、まだまだ日本は平和で、そして豊かで、そして何より、知恵不足なんだと思わされました。逆説的なことは半端じゃないのですが、反面教師中国を見て、未来を感じる旅になりました。
 とはいえ、上海の夜景がPM2.5の陰に浮かび上がっている姿は、なぜか悲惨な状況ではなくて、這い上がろうとする巨大な国の実像に見えて、奮いたつ、感じが自分の中にありました。
 帰国して間もなく、三日坊主でも良いから僕は国際情勢について、大学時代を思い出して文献を手探りでひっくり返しています。想像力を枯渇させない景色が頭に浮かび上がる、今回の上海リサーチは、実に良い生きた文献となりました。